「ライティング・ゼミの課題提出が、残り4回となりました」
PC画面の向こうから、ちょっと高い声が聞こえてくる。
移動中の車の中で何度か動画を見返す内に、シーンとした瞬間に特徴的なあの声を思い出せるようになってしまった。
8月から始まったライティング・ゼミも最終講座を終え、残りは課題提出のみ。
前評判通り、かなり勉強になったため、上級編や他の講座も受けてみたいと考えているが、二の足を踏んでいる。
その理由は、最近の仕事をうまく回せていないことにある。日々のやるべきことに追われ、タスクを終えることがゴールになってしまい、達成感や楽しさがほとんどない。
解決策としては、できる分だけの仕事を引き受けて、その分をしっかりきっちりこなせば良いとは思っているのだが、「これできますか?」「あれをお願いしたいんです」と新規に声をかけられれば、目の前の報酬だったり、他人から向けられた期待だったりを裏切りたくなくて、はい喜んでー! と答えてしまう。
しかし、新規で受けるということは、これまでやったことのない応用的な仕事が増えるということでもあって、最近の仕事は準備運動なしに100mをダッシュするような、体もメンタルも一気に疲れてしまうものが多い。
寝る直前まで「ああ、次はあれを終わらせないと」と明日の不安がグルグルと巡り、意識が復活した瞬間から「今日はあれを……」と次のタスクが満員電車のようにギュウギュウと脳みそを占領していく。
まだ目を開ける前。意識がぼんやりとした虚ろな一瞬を、いくつもの電車が大きな音をあげて走りまくっている。
数年前、新卒で入った会社を3ヶ月で飛び出して収入がなくなり、この世界のどこにも自分の居場所がないように思っていた2016年の私から見たら、仕事に追われている2022年現在の私は羨ましい存在のはず。
仕事がある、ということは、大なり小なり世間から求められている状態だから、孤独だったあの頃の自分からしたら、かなり幸せな状態のはず。
しかし、隣の芝生は青い。
もっとゆったり、自分のペースで日々を送っていたあの頃の自分が羨ましい。
収入は当時の数倍、数十倍とあるけれど、心はだんだんと傷んでいる。
いつか、ダークサイドに落ちて黒い仮面を被ってしまうのではないだろうか。
そのせい、というのはまるっきり言い訳で、とってもとっても格好が悪いことなのだけれど、とにかく仕事がうまく回らなくて、ライティング・ゼミの課題を4週飛ばした。
それまでは毎週提出していて、8本中6本がメディアグランプリへの掲載も叶っていたのに、忙しさのせいにして課題提出を見送ったのだ。
その裏には睡眠を削っていた分の体力的なしんどさも確かにあったのだけれど、もっと心の奥の嫌なところには「6本も評価されているから、いつでも戻れる」とちょっと舐め始めていた。
今週だけ見送ろう。今週だけ、今週だけ……が続いて、いつの間にか課題を提出できる機会は残り4回となってしまった。
ライティング・ゼミでは、「最後の3回でメディアグランプリへの掲載を目指そう」と謳っている。
ああ、今からでも間に合うのだろうか。
正直、今こうして課題に取り組んでいる今も「あれをやらねば、これを……」と脳内を仕事のことがグルグルグルグルと回りまくっている。苦しい。
苦しいけれど、こうやって書いている内に、何だか気持ちが楽になってきている自分もいる。
最終講座で三浦店長が言っていた「自分のために書く文章もめっちゃ良い」とは、このことだ。
書くことは癒しになり、カウンセリングにもなる。
文字にすることで、ちょっと引いた目で自分を捉えることができたことで、何だか今抱えている不安は大した問題ではないような気がしてきた。
そもそも今の私は、目の前の仕事を大きな壁として捉えすぎていたのでは?
何かで読んだ「頭の中にあるアイデアは、いつだって最高傑作」と一緒で、「頭の中にある不安は、いつだって地獄」って感じだろうか。文字として吐き出すことで、少しだけ楽になる。
そういえば、今までの私は0か100かで物事を捉えがちで、グレーの部分が極めて少ない人間だった。
だから、16回ある課題の中で4週も飛ばしたら、もう戻れない。
それまで提出していた8本も、自分の中で無いことにしてしまっていた。
6本は評価を受けて、メディアグランプリのレースを走っていたのに、無かったことになるのは悲しいよな。
課題を飛ばした4週。つまりここ1ヶ月は、自分で自分のことを苦しめていたのかもしれない。
見方を変えれば、講座に通いながら、新しい仕事にも挑戦している自分って結構えらくないか。
ラスト20代は色んなことに挑戦するぞって目標を立てて、それが実現してるって素敵じゃないか?
人生は捉え方次第だし、いつだって「もう一度、ここから」を受け入れてくれる。
それを繰り返しながら人は大きくなるし、書く力も伸びていくんだと思う。
90点以上がメディアグランプリに掲載だとしても、60点、70点のところまで持っていけたことには価値がある。
だって、それは次につながるから。
私と同じように、課題提出が途切れてしまった人。
まだ一回も提出していない人も、きっと大丈夫。
「もう一度、ここから」を合言葉に、ラスト4回。一緒に書いていきましょう。
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本記事は、天狼院書店が主催する「ライティング・ゼミ」で提出した課題文です。
2022年11月公開。
当時は、29歳。31歳になった今も、物事がちょっとでも行き詰まると「全部ダメだ…」と匙を投げてしまいそうになります。
でも、最近は「まあまあ、人生は”もう一度ここから”の繰り返しだから」と自分に語りかけ、励ましながらなんとかやってます。
過去に書いた文章を公開することにした背景は、以下の記事からご覧いただけます。