「あの人ってさ、ドラゴンクエストのトルネコに似てるよね」

「ドラゴンボールのベジータ的な感じよ」

「スター・ウォーズのダース・ベイダーみたいなさ……」

2012年夏、大学生1年生だった私は「大学生活で人間的にもっと成長したい」という思いから、鹿児島市に拠点があるまちづくり会社のインターンシップに参加した。

期間は、夏休みに入る8月から翌年3月まで。

大学最初の夏休みから始まったその8ヶ月間は、とにかく色んな人との出会いがあった。

他大学の学生はもちろん、様々な職種の社会人など。

インターン先で支給された100枚の名刺はあっという間になくなり、追加発注をお願いするほどだった。

元々は人見知りで、人と話すことはどちらかといえば苦手だったはずなのに、色んな人と出会い話す中で、コミュニケーションの楽しさと面白さに気づいた。

いつの間にか、自分からも積極的に話しかけることができるようになっていた。

人と話すことで得られる情報は当時の私にとっては勉強になることだらけで、日々の中にたくさんの学びがあった。自分の成長を感じる場面も多かった。

しかし、そんな充実した日々を過ごす中で、時々起こるある現象に悔しい思いをさせられていた……。

それは、「ドラクエのトルネコ」「ドラゴンボールのベジータ」「スター・ウォーズのダース・ベイダー」のような物語に出てくるキャラクターを用いた例え話である。

個人的な経験として、主に目上の人との会話の中で起こることが多く、引き合いに出されるのはゲームや漫画のキャラクターだけでなく、映画の登場人物も含まれるが、その中でもドラクエ、ドラゴンボール、スター・ウォーズが圧倒的に多かった。

私自身、小さい頃はポケモンやマリオのゲームで遊ぶ子どもだったし、るろうに剣心やセーラームーンを見て育った。

どちらかというと、エンタメ作品には強い方だと思う。

とはいえ、さすがに自分の世代から外れているものは見ていないので、目上の人が持ち出す例えがいまいちわからなかったのだ。

わからないなら正直に「わからないです」と言えばいいのに、嫌われるのが怖くて中々言い出せなかった。

中途半端にわかっているフリをして、なんとかその場を乗り切り、相手と分かれた後に毎回ちょっとした罪悪感が胸に残る……。

何に対する罪悪感かというと、こちらがその例えを知らないばかりにコミュニケーションを十分に取れなかったという申し訳なさである。

例え話という言葉を辞書で調べると、「ある事柄をわかりやすくするために、他のことを引き合いに出していう話」と記されている。

つまり、例えを用いる相手は何かしら伝えたいことがあり、それをなるべくわかりやすい形で説明しようとしているのだ。

きっと面白い話をしてくれている。

多分、何か為になるようなことを伝えようとしている。それはわかる。

でも私は例え話がわからないから、話されている内容の重要な部分が欠けた状態で受け取ってしまう。

1を聞いて10を知る。ではないけれど、1を聞いているはずなのに、0.5ぐらいしか理解できていないような気がする。

悔しい。

せっかくのコミュニケーションのチャンスなのに、損しているような気がしてたまらなかった。

だから私はコミュニケーションを深めるために、ある時から戦略的に物語を摂取するようになった。

ドラクエはシリーズの中から説明を読んで面白そうなソフトを実際にプレイしたし、ドラゴンボールはTSUTAYAで借りて読んでみた。

いずれもエンディングまで辿り着かなかったから雰囲気程度だけど、それぞれの作品について未知ではなくなった。

雰囲気程度の理解だから、例えに出されてもまだまだ完璧に理解はできないけれど、以前よりは大分マシになったと思う。

1を聞いて、5ぐらいは理解できるようになったかな。

そうやって、色んな物語を摂取しようと行動する中で特に苦労した物語がある。

スター・ウォーズだ。映画を見たことがない人も名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。

1977年に最初のシリーズが公開され、世界中で大ヒットしている映画だ。

これに苦労した理由はシンプルで、画面が古すぎて見ていられない。

当時としては、かなり高い技術が使われていると思うが、1990年代に生まれて中学時代から携帯を持っている私は、ちょっと古く感じてしまった。

でも、これまで色んな人との会話の中で例えに出されてきた物語だから、見ておきたい。なのに、集中力が途切れる。

まだ半分も終わっていないのに眠くなる。

テレビで見てみよう。スマホで見てみよう。と視聴方法を変えながら4、5回トライしたが、いずれもエンドロールまで辿り着くことはなかった。

そんな悩ましい日々を過ごしていた私だったが、ある道具のおかげで1作目の「エピソード4/新たなる希望」を見終えるのだ。

その時は話の途中で眠くなるどころか、グッと画面に集中することができた。

あんなに挫折したのに、なぜ急に……? 理由は、2021年発売のiPad Pro。

最新技術が詰め込まれたディスプレイで見ても、1970年代公開の映画の古さは変わらないけれど、なんというか鮮やかなのだ。

だから画面の古さに気が散ることなく、物語に集中することができた。

さすがは世界中で大ヒットしている映画。物語に意識が向いてしまえば、夢中になるのはあっという間だった。

そうして一気に、3作目の「エピソード6/ジェダイの帰還」まで見終わって、4作目の「エピソード1/ファントム・メナス」まで再生した。

これ以降は2000年代に公開された作品だから、時間はかかるがきっと最後のシリーズまで走り切れる。

もう会話の中にスター・ウォーズの例えが出てきても大丈夫。

そんな自信を持てるようになった数年後、やっぱりその瞬間はやってきた。

この前のライティング・ゼミの中で、はい出ました。スターウォーズの例え。

わかる! わかるぞ! 話している内容がスルスルと頭に入ってくる。

さらには、先日初めましてのクライアントとの会話の中でも出てきた。

「つまり、この会社はスター・ウォーズシリーズみたいな成り立ちなんだよ」

今なら堂々と答えられる。

「あ〜! なるほど、めっちゃわかりやすいです!」

返ってきたのは、「お! 伝わったか!」という嬉しそうな顔。

50代だというそのクライアントは、子どものような顔でこちらを見ていた。

 

 

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本記事は、天狼院書店が主催する「ライティング・ゼミ」で提出した課題文です。

2022年9月公開。