3月頭に東京へ出張する機会があり、それに合わせて少しだけ大人の春休みを満喫することにした。

この時は1人出張だったため、昔推していた元アイドルの写真展に行ったり、普段はSNSで見ているアーティストの原画を見たりと、自由気ままに都会を楽しんでいた。

そんな風に勝手気ままに過ごす中で、初めて足を運んだのが銀座の「Sony Park展 2025」

わたしが行ったのは、YOASOBI、羊文学、Vaundyの展示をしている頃で、それぞれ「半導体は、SFだ」「ファイナンスは、詩だ」「音楽は、旅だ」とタイトルがつけられていた。

最初に体験したのは、YOASOBIの展示。

自分の名前と心音を元に生成されたビジュアルがYOASOBIの楽曲に合わせて動き回り、それが他の参加者のビジュアルと混ざって大変賑やかだった。

最後には大合唱の中に入ったような感覚になり、その音圧に何故か一瞬うるっとした。

心の琴線のどこに触れたかわからなかったが、今思えば、おそらく11月に東京ドームで見たYOASOBの5周年ライブでの感動と共鳴したのだと思う。

 

次に見たのは、羊文学。

個人的には、呪術廻戦のエンディングテーマ「more than words」が印象的で、静かだけど響き渡る音楽を作る人たち……という認識だった。

実際の展示もアーティストが紡ぐ言葉を主体にしたもので、1つ目は「more than words」に使われている文字が、音楽に合わせて水中をたゆたうように沈むものだった。

モニター下に本物の水たまりがあって、それと繋がるような言葉と水のグラデーションが素敵だった。

2つ目は初めて聞く曲だったけど、歌詞に使われている1文字1文字が波のように巡る表現が美しかった。

はじめは、文字そのものだった言葉が、何十〜何百と増えていって、いつのまにか膨大な数になり、終いには海になるなんて、清々しい発明だった。

 

さいごは、Vaundyの展示。

個人的には、ここが一番「……え?」と驚きが大きかった。

入場でスタッフからプラグ付きのヘッドホンを受け取り、説明を受ける。

そうして進むと、地層のようにつくられた空間が広がり、あるのはプラグを入れる約200ヶ所の穴。

近づくと、穴の手前には二次元バーコードと曲名が書かれていて、プラグを差し込むと音楽が流れ出す……という仕組みだった。

来場者それぞれがプラグを抜き差しし、リズムに乗ったり、直立不動だったり。

空間としては静かなものだったが、それぞれのヘッドホンの中では、音楽世界が広がっていた。

まるで音楽を禁止された地下世界で、コソコソと音楽を嗜んでいるような、ちょっと世紀末っぽい雰囲気もあった。実際に、展示はB2で行われていた。

でも、わたしが一番引っかかったのは、そこではない。

この展示の一番の驚きは、“Vaundy本人の曲を楽しむ場所”ではなく、“Vaundyが聴いてきた音楽を聴くところ”だったこと。

邦楽から、懐メロ。アニメソングに洋楽と、約200曲を聴くことができる展示空間だがVaundy本人の曲は、ほぼなかった。

あったとしても数曲だったと思う。

先に体験したYOASOBIと羊文学の展示は、そのアーティストの曲をベースにつくられた仕掛けを体験する場所だった。

行ったことのない人に内容を伝えるとしたら、文字通り「◯◯(アーティスト名)の展示を見に行った」と言える空間だった。

けれど、Vaundyの展示の場合、わたしだったら「Vaundyの曲じゃなくて、彼が今まで聴いてきた曲を聴くところだった」と話すだろう。

これってかなりハイコンテクストな展示だと思っていて、Vaundyそのものに関する展示はほぼないのに、訪れた人が当たり前のように(少なくともわたしにはそう見えた)その場を過ごしているのが、すごく奇妙でおもしろかった。

だって、普通展示にそのアーティストの名前が入っていたら、そのアーティストの曲とか制作物が見れると思うじゃん。

でも、そうではないことが当たり前のように受け入れられていて、不思議だった。

 

一通り展示を体験した感想としては「わ〜!これ高校生の時に聞いてた!懐かしい…!」と共感する曲もあれば、「ぐわ。こんな格好良い曲聞いてたのか。さすがすぎる」と新しい発見も多かった。

なかでも、15年前以上前のボカロ曲「天ノ弱」を見つけた時は、「Vaundyもがっつりボカロを聴いてたんだ!」と嬉しくなったし、「夜咄ディセイブ」にプラグを差し込んだ時は、言葉にならない感情が脳みその遠くの方から押し寄せてきた。

夜咄ディセイブは、2013年にニコニコ動画に投稿された曲で、元々はボーカロイド(IA)が歌っていますが、これをLiSAが歌っているバージョンがあるんです。

LiSAは、一般的には鬼滅の刃の主題歌でバーンと名前が知れ渡りましたが、わたしは2010年放送「Angel Beats!」の劇中バンドのボーカルを務めている時から応援しています。

去年はライブに2回行って、来月も武道館ライブに参加します。

そんなLiSAバージョン(正確には「夜咄ディセイブ」じん ft. LiSA & メイリア from GARNiDELiA)を見つけた時は、「Vaundy!実は心の友だったのか?」と、彼自身のこともさらに好きになりました。

ボーカロイドバージョンももちろん良いけど、まだ世の中が今ほどLiSAを知らなかった頃の歌を展示してくれたVaundyに、心の中で拍手を送りました。

何者でもないわたしが言うのはおこがましいんだけど「あんた、わかってんなあ……」と。

ある哲学者が「人は人に語られることによって人になる」といったように、人間の脳みそが持つ拡張能力にすごくロマンを感じた一日でした。