本土最南端 佐多岬。

南大隅町へ行く機会があったので、ついでに佐多岬に行ってみた。

 

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佐多岬へは彼が運転する車で向かった。とてもいい天気。先月までストーブを点けるくらい冷えていたのに、今月は桜が咲いてもう散り始めている。

冬から春へ。待ち遠しかった温かさなのに、いざ包まれると体がびっくりしてシャツの中に念のため長袖を着ようか迷う。着たら暑いし、でも寒かったら嫌だし。心と体のちぐはぐさに少し戸惑う。

本土最南端へ向かう道は田舎という言葉がぴったりだった。畑、山、空。片手で収まる程度の人とすれ違いながら、車はどんどん進む。

だんだんと開聞岳がある方の陸が短くなって、いつの間にか真横には海しか見えなくなっていた。

 

「日本って本当にこっち側が短いんだ」と当たり前のことを口にすると運転中の彼に笑われた。

天気が良すぎて眩しい。助手席に太陽のしつこい攻撃が降り注ぐ。でも、この感動している気持ちを覚えておきたくて必死に目を開けた。

 

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ちょっと不気味なガジュマルに驚きながら道を進み、とうとうたどり着いた佐多岬。と思ったらそこは駐車場と観光案内所がある公園だった。もっと端へ行くためには、トンネルを抜け工事中の道を歩かないといけなかった。

ここまで来たならもっと南へ。わたしと彼は迷うことなく、トンネルの中へ足を踏み入れた。

 

自動センサーで灯りがつくから思ったより怖くなかった。工事中で整備途中の道は歩きにくかった。スニーカーで正解。この道をヒールは靴の方がかわいそうだ。

冗談を言いながら、歌をうたいながら彼と歩いているとやっと着いた。

 

本土最南端 佐多岬。ここが日本本土の端っこだ。

 

 

想像以上に青い海と、わたし達を照らし続けた太陽が待っていた。

 

鹿児島生まれのわたしにとって、海といえば錦江湾だった。ニュースなんかでは鹿児島湾と呼ばれている。

高校時代、思春期特有の何が嫌なのかわからないけどイライラする病に悩まされた時、よく海を見にいった。ぼーっと好きな音楽で耳を塞ぎながら見た海は、いつも向こう側に陸が見えた。

ONE PIECEで海の広さ、そこで繰り広げられる仲間との冒険に感動してたけど、現実世界の海に対しては感動なんてしてなかった。小さな海。よく見にいくほど好きだったけど、雄大さは感じてなかった。

 

ところがどっこい、佐多岬から見える海は向こう側に何もなかった。見えるのは水平線だけ。「ここが日本の本土の端っこか」

彼もなんだか感動しているようで、静かに展望台の階段に座った。

 

ここが端っこ。最南端。見えるのは水平線だけで、この先には何もないように感じた。

でも、この先にも日本はある。すごい。日本って大きいんだと体全体で感じたのは初めてだった。

 

これからは日本地図を見る目が変わる。日本の長い方の端っこを天気予報で見て今日の感動を思い出す日があるだろう。

話しが飛躍するけど、伊能忠敬はすごい。これをデジタル機器が何もない時代に知ったのか。歴史上の一人としての認識だった彼に対して、わたしの評価は爆上がりした。

 

初めての本土最南端。

泣くほどじゃないけど、安心するような。静かな感動に包まれました。