初めて誰かに好かれたのは、小学生の頃だった。

廊下ですれ違う時に1秒以上目が合い続けたり、放課後にわざわざ遠いところから「バイバイ」と声をかけられたり。

そういったことが数週間ほど続いたある日、女友達から「◯◯くんって、かざりちゃんのことが好きらしいよ」と教えられ、それから数日後に本人から手紙が届いた。

それまでは特に意識してなかったけれど、私もなんだか気になるようになってしまって、いつの間にか好きになっていた。

両思いだからといって大人の恋愛のような進展があるわけではないけれど「誰かから好かれている」という現実が、私に自信のようなものを芽生えさせてくれたのは確かだった。

テストの点数が伸びなかった。

友達から嫌なことを言われた。

親から理不尽に怒られた。

ひとつひとつは大したことないが、積み重なると明日が来るのが嫌になってしまう出来事も「◯◯くんから好かれている」という事実が少しだけ私の心を軽くしてくれた。

中学校でもそれなりに好きな人ができて、放課後一緒に帰る。

バレンタインにチョコをあげる。

運動会の後にハチマキを交換する。といった初々しい経験を楽しんだ。

高校時代は男子生徒が三分の一しかいないような元女子校に通っていたので、彼氏どころか好きな人もできなかった。

大学に入学すると多くの18歳と同じように恋人を求めたが、中々機会に恵まれなかった。

しかし、ひょんなことから男女2名ずつで遊ぶことになり、その内の1人と映画の話題で盛り上がって、数日後には付き合うことになった。

一緒に映画を見に行って、朝方までファミレスで感想を言い合うのがお決まりのデートコースだった。

とはいえ、長くは続かず半年ほど経った頃には連絡を取らなくなり、いつの間にか他人に戻っていた。

これまで私に好意を抱いてくれていた彼らとの会話を思い出すと、みんな似たような点で私のことを好きになってくれていたような気がする。

「一緒にいると落ち着く」「話が合う」「大人っぽい」

はじめはそれが嬉しくて、相手に喜んでもらいたくて私も頑張るのだが、一定の時間が経つと窮屈さを感じてしまう。

「一緒にいると落ち着く」ならば、本当はあれこれ話したいけど大人しくしておこう。

「話しが合う」ならば、君がこの前教えてくれたゾンビ映画を見ておこう。

「大人っぽい」ならば、落ち着いた色の服を着て、静かな言動を心がけよう。

一緒に過ごしたい思いはあったものの、彼らが見ている私と実際の私とのギャップに疲れてしまい、いずれの恋も短命に終わった。

長くても半年。短いと1ヶ月でお別れなんてこともザラにあった。

恋人がいない私には何の価値もない……とまでは思わないが、誰かから好かれているという現実が与えてくれた自信は無くなるわけで、ひとりはやっぱり寂しかった。

どうして私の恋は長く続かないのか……。

高校時代に同じクラスだった女の子が、同じ人と付き合い続けている姿をSNSで眺めながら、答えのない問いに苦しんだこともあった。

そうして、2022年。

現在の私はというと、なんと同じ男性と8年も付き合っている。

一体、何があったのか? 答えは明確で、割り切ったのだ。

自分らしくいられない時間に苦しむよりも、最初から素の自分を見せてしまおう。

それで嫌われたのなら、仕方ない。早めに判断がついたと思って、次にいこう。

そんな風に考えて、最初からスッピンを見せて、BLが並ぶ本棚を隠さなかった。

デート当日に寝坊もしたし、わがままも言ったし、体調が悪い時は我慢しなかった。

これで離れていくのなら仕方がない……と思ったが、今付き合っている彼はとにかく器が大きかった。何でもありのすごい人だった。

同棲してからも、裸で部屋中を駆け巡る私を受け入れてくれたし、突然奇声を上げても怒らなかった。

今までの彼らだったら、あっという間にお手上げで早々に離れていただろう。

でも、今の彼は何でもあり。

大きな愛で私を包んでくれるから、私も大きな愛で包んであげたいと思うようになった。

そうして、いつの間には私たちは8年間を共に過ごし、来年には結婚を控えている。

「ありのままの自分を好きになってほしい」

世の中ではそんな願いは叶わない、と言われているけれど、試しにやってみたら意外と近くにあるものだった。

たまたま一人目で良い人に巡り会えた。といえばそれまでだが、あの時割り切ってくれた自分に、今はかなり感謝している。

 

 

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本記事は、天狼院書店が主催する「ライティング・ゼミ」で提出した課題文です。

2022年12月提出。

本記事に登場している彼とは、翌年の2023年に結婚しまして、今年(2025年)で付き合って10周年を迎えました。

長く付き合ってから籍を入れたからか、結婚後も二人の関係は正直あまり変わりません。

今もわたしは等身大のまま過ごしていますし、彼もきっと二人の時は素の自分でいる時間の方が長いと思います。

これからも末長く……を目指して、穏やかに暮らしていきたいです。

 

さて、普段あまり書かない恋愛をテーマにした文章でしたが、どうでしたか?

付き合って10周年、結婚して1年経つと色々とネタがありまして……、今後はこういう記事も書いていきたいと思います。お楽しみに!

 

過去に書いた文章を公開することにした背景は、以下の記事からご覧いただけます。

2025年あけましておめでとうございます