2019年7月23日に、鹿児島県 日置(ひおき)市中央公民館で
「鹿児島県地域おこし協力隊 関係者向け研修会 〜任期満了後の出口を考える〜」が開催されました。
全国各地で活動する地域おこし協力隊員はもはや地域づくりに欠かせぬ人材となっています。
職業や居住地の大きな転換を図り地域に飛び込んできた隊員にとっての最大の関心事は、任期満了後にその地でどう暮らしどう生計を立てていくかにあります。
本来隊員を迎える行政や地域側が、隊員の採用を行う段階からこの問題に真正面から向き合った上で、受け入れのための制度づくりに取り組むことが重要ですが、なかなか出来ていないのが実情です。
今回はすでに任期満了を迎えた隊員、これから迎える隊員の任期後のあり方にスポットを当て、受入自治体の担当者や隊員当人からの事例発表を通じて、任期後のなりわいづくりにどう取り組んだかを考える研修会を開催することとなりました。
ご参加頂いた皆さまとの交流を図りつつ、双方向型で議論する場としたく思っておりますので、どうぞご参加ください。
鹿児島県内4地域。
南九州市、日置市、いちき串木野市、阿久根市の地域おこし協力隊とそのOB、行政担当者がゲストスピーカーとして登壇。
「協力隊員の任期満了後の出口を考える」をテーマに各地域の協力隊活動について語られ、それを元に質疑応答や、参加者を交えてのディスカッションが行われました。
1年前の研修会から、どのような変化があったのか
本研修会は約1年前に開催された
「地域おこし協力隊 受入行政地域側研修会 ~隊員の士気を高めるための制度づくり~」の続編でもあります。
昨年は「隊員の士気を高めるための制度づくり」をテーマに、南九州市を拠点に活動するNPO法人頴娃おこそ会が主催。
同市や日置市の協力隊が登壇し、それぞれの地域での活動や、それを支える受け入れ地域側行政担当者の思いや受け入れ方法について語られました。
今年参加された方の中には、1年前の研修会に参加された方も。
昨年登壇した南九州市や日置市の地域おこし協力隊に、この1年間でどのような変化があったのか、なかったのか。
3年間の任期を終了した協力隊の進路、残り半年ほどで卒業となる協力隊の現状などについて、成功事例だけでなく、うまくいかなかった点を含め、赤裸々に共有する時間となりました。
当日のプログラム
~協力隊員の任期満了後の出口事例~
① 南九州市とNPO法人頴娃おこそ会による創業支援
② 日置市美山地区 公民館連携からの地域商社立ち上げ
③ いちき串木野市 元隊員の活動事例からの学び
④ 阿久根市 観光協会新組織の設立———————————
⑤ 上記に対する双方向型の意見交換
⑥ 鹿児島県地域おこし協力隊ネットワーク組織(仮)の立ち上げについて
地域おこし協力隊 関係者向け研修会の様子
開会
「任期満了後の出口を考える」をテーマに開催された本研修会。進行を務めるNPO法人頴娃おこそ会 加藤さんの開会の挨拶からはじまりました。
続いて日置市美山の地域おこし協力隊OB 吉村さんから、研修会の開催意図や趣旨について会場へ共有。
さらに鹿児島県庁 地域政策課の担当者の方から挨拶をいただきました。
オープニング、趣旨説明
4地域それぞれのプレゼンの前に、進行の加藤さんより改めて本研修会の趣旨を全体へ共有。
さらに、本研修会の目的の1つである
「主催・登壇・参加者双方向にて交流を深める場」を達成するために、参加者へ「3人程度のチームに分かれてください」とアナウンス。
グループ内で1人ずつ
「呼ばれたい名前、普段していること、今日に期待すること」を共有しました。
全員が話す時間を持つことで場の緊張を解き、研修会全体の理解度を高める効果もあります。
4地域の関係者、それぞれの思い
会場が温まったところで協力隊員の任期満了後の出口事例について。
南九州市、日置市、いちき串木野市、阿久根市の4地域の地域おこし協力隊やそのOB、受け入れ地域の行政担当者による事例共有へ移ります。
南九州市
はじめは、南九州市役所で協力隊担当を務める、上野さんから。
1人目の協力隊が着任したのが、平成28年11月。
地域おこし協力隊の制度が始まったのが平成20年と考えると、市として動きだしたのは遅かった印象だそうです。
▼協力隊受け入れについて
・「いかに裁量を持たすことができるか」を重視
・協力隊の活動費の一本化のために「活動負担金制度」を導入
・「任期終了後の活動を常に見据えるべき」と考え、隊員が増えるごとに制度の改善を行ってきた
・隊員のフェーズに応じて適切な制度づくりに取り組むことで、協力隊の意欲向上につなげている
▼任期満了後の出口を作るために
・協力隊の活動については「稼ぐ」ことに意識を向けており、月例報告会でそれぞれの意識共有
・副業の扱いについては、地域から求められている個人案件(デザインなど)や、地域に経済効果をもたらす副業は「地域協力活動」として活動日数に含めている
続いて同市の地域おこし協力隊である、蔵元さん。
現在任期3年目。着任地である頴娃町には、2017年に参画。
受け入れ先であるNPOの成長フェーズと移住したタイミングが重なり、NPOから派生する形で株式会社を起業し、代表取締役に就任しています。
▼協力隊として
・起業や会社を作ることが、必ずしも正しいということではない
・フリーランスとして動くことで活躍できている、協力隊の事例もある
・「出口を考える」とは、「結局、飯が食べられるのか?」という話
・きれいに食べていけたら、という思いはあるものの、仕事自体は(選ばなければ)たくさんあるともいえる
▼任期満了後の出口を作るために
・会社代表としては、今後「既存事業の売り上げアップ」「新規事業の売り上げを作っていく」
日置市
2地域目は、日置市から地域づくり課 濵崎さん。
日置市では美山地区から要望を受け、協力隊を募集することに。
背景としては地域の価値を発見、育成し、地域を巻き込みながら観光の推進を図ろうという計画の下、その突破口として協力隊を求めていた、とのこと。
▼協力隊受け入れについて
・採用時は、職員(公務員)という立場で受け入れた
・着任後半年間で制度を設計し、一般職非常員職員の条例を制定。その後、着任中に美山商店を起業することになり、公務員という位置付けが厳しくなったため、退職届を提出。日置市役所を退職する形に
・退職後は、協力隊業務を委嘱する形で、吉村さんと再度契約書を結んだ。委託契約後の配属先は、美山公民館に
・活動資金として公民館に活性化交付金を支給。そこに協力隊費を含めた
・人件費について
市役所職員の場合は市から直接支払っていたが委託契約以降は、公民館への給付金に、協力隊としての活動経費と人件費も含めていたものの、会計の仕組みとして、人件費の支給はなるべく直接が望ましいとのこと
▼ 2人目の協力隊受け入れについて
・2人目の協力隊については反省を生かし、協力隊業務を委託するという形にし、委託料を支払っている。人件費については市役所が直接持つことに
▼受け入れ側として、協力隊制度を運用してみて
・行政の会計科目では、協力隊が求める迅速な動きに対応できない
・南九州市は負担金として一本化したことで、柔軟に対応できるようになった
・協力隊の活動資金を一本化することは、行政としても業務軽減につながる
・「科目を一本にできる方法がないか」を自治体の皆さんにも考えてもらえたらと思う
続いて、同市の地域おこし協力隊OB 吉村さん。
任期途中で職員という立場から、委託契約という形に切り替えたことで「本当に食えたのか?」
また「社会保険の有り/無しによる変化」などについて、具体的な内容が共有されました。
▼着任時当初のミッションとしては、3つ
1,観光PR、発信
2,美山商店という場所の活用
3,起業などで、定住を目指す
とはいえ「フリーに美山のことをやってくれていいから」と言ってもらい、まずは地域を知ることから始まった
▼協力隊として
▽吉村さんが考える、地域おこし協力隊3年間の流れ
1年目 地域の人と汗をかいて、地域を知る
2年目 動く中で見つけた資源を磨く
3年目 任期終了後に向けて、活動をシフトしていく
▽吉村さんの実際の動き
1年目 イベント運営(美山の朝マルシェ)
2年目 美山商店を起業
3年目 退任後に向けた動き、
行政委託として講座を開催、場所の改修
ゲストハウス運営の勉強のために、他県に1週間ほど滞在
▽任期満了後の動き
地域おこし協力隊サポートデスク就任、月に何度か東京へ出勤
平行して宿開業の準備や、法人業務も行う
▼任期満了後の出口を作るために
▽3年間の任期を通して、特に伝えたいこと3つ
1, 起業した場合、法人給与より協力隊経費が多くても、雑所得扱いなので確定申告の際に、青色申告できない(白色のみ)
2, 委託契約の場合、社会保険は全て実費
3, 委託を受ける場合、協力隊期間中に挑戦したいことが明確なことが大事
さらに貯蓄があることなど、受け入れ地域や行政とも十分に協議が必要
・「出口を作るって大変」(特に金銭面)
・地域を置き去りにして何かはできない
・行政からお金をいただいているという思いもあり、行政もないがしろにできない
・大事なことは「一緒に協議しながら、何がいいのかを探っていくこと」
・協議しながら進めていくことで、地域に求められていることを見つけていく
いちき串木野市
3地域目は、いちき串木野市 地域おこし協力隊OBの、小林さん。
当日の参加は叶わなかったものの、動画出演という形で事例発表を行いました。
▼下記で全編ご覧いただけます。
出身は山梨県。サラリーマンとして15年ほど働いた後に、いちき串木野市に移住。きっかけは、好きな焼酎の蔵があったからとのこと。
▼協力隊として
・リースで借りていた公用車の費用を別の活動に回したり、出張の際の飛行機をLCCに変更など、少しずつ制度を変えていった
・行政担当者が毎年変わったため、関係を一から構築する必要があり大変だったが、担当者の上の立場にいる方が理解あり、3年間同じで救われた
▼任期満了後の出口を作るために
・市の担当者から提案を受け、任期満了後は市から、移住相談業務の委託案件を受ける予定だった。任期終了後に契約書を交わす計画
・その提案を受けての3年目の動きは、受賞したフリーペーパーを持って東京などへ出張し、通常の移住パンフレットとは異なる内容でPRした
・その他、副業や任期後に向けた取り組みとしては、国民宿舎が民間譲渡にでた際に必要だったため、法人を立ち上げた
▼移住満了後の計画が崩れた瞬間
・移住相談業務の委託については、予算が通るかわからない状態だった
・小林さんの任期は3月末までだったが、2か月くらい前に予算が通らなかったことを担当者から知らされた
・憤慨する気持ちもあったが協力隊として行政と関わる中で、行政内の仕組みも見えていたし、予算獲得のために動いてくれていたのも見えていて、悶々としていた
▼任期満了後のリアルな動き
・任期満了後の状態については、一旦お金のことは考えないことに
・幸い立ち上げた法人に市から管理業務の委託があり、収入は0ではなかった
・リクルートの誘いもあったが、自身が望むライフスタイルと異なり辞退した
・意識的に行政に近づかないような状態になっていたことも
▼地域おこし協力隊を経験してみて
・行政は行政の仕組みがあり、全然違う世界。そこは変えられないし、変えていいことではない
・行政と歩む寄れるところは、歩みよる。しかし行政に頼りすぎると、対等な立場でいられなくなる
・頴娃や美山の事例については、行政側からすると少し現実味がないかもしれない
・成功事例としての協力隊や受け入れ地域の事例を共有する時間も必要だが、毎日市役所に出勤している協力隊も多くいて、そんな協力隊の話を聞く場があってもいいのかもしれない
▼隊員と行政の関係について
・協力隊自身、せっかく遠い土地から鹿児島へ移住しているのに、毎日やだなあと思いながら暮らしたくはないと思う
・その人に合った、生き方として幸せな方向を、行政と協力隊一緒に考えていくことが大切
阿久根市
最後の4地域目は、阿久根市 地域おこし協力隊OB 石川さん。
京都で10年間ほど、ビルや工場のリノベーションを手がける会社を経営した後、阿久根市の地域おこし協力隊に。
協力隊として2年半活動後、約1年間、市の観光連盟で事務局長を務める。
2019年4月から、株式会社まちの灯台阿久根の代表を務める。
▼株式会社 まちの灯台阿久根とは?
・3月に旧観光連盟を解体し「子どもたちのための、おかえりなさいを作っていこう」という思いの下、約20社が出資し、立ち上がった会社
・地域から任命を受け、石川さんが代表を務めている
▼まちの灯台設立にあたって
・会社設立に当たっては、説明会を約40回開催
・なぜ協力隊や行政を含めて運営しているかというと、阿久根市の観光まちづくり戦略と合致するから
・戦略を実行していくためには、協力隊が必要。まちの灯台阿久根として協力隊と関わることで、3年後、阿久根市に残れる可能性を高めていく狙い
▼まちの灯台の主な業務内容
・事務所としては道の駅上階の公募を獲得し、運営をスタート
・旧観光連盟の仕事を引き継ぎながら、何となくルーティンでやってきたイベントや事業の精査
・ふるさと納税関係の仕事
・観光という視点で自主財源を確保しながら、町を起こしていくことが目的
▼協力隊を受け入れ体制を整えている
・平行して、協力隊の運営を丸ごと委託してもらう準備を進めている
・今後まちの灯台として5人採用する予定、予算獲得済み
・現在は3人の採用が決定している
▼地域おこし協力隊として
・着任中は主に、情報発信を担当。
一時、協力隊が運営するフェイスブックページのいいね数、ベスト5に入っていたことも
・さらにデザインや建築関係が得意だったため、特産品開発に関わったり、空き家をリノベーションして、ゲストハウスやカフェの運営を行なった
▼イワシビルについて
・「地元の若い人に意欲的に働いてもらうには、どうしたらいいか」を考え、1次2次産業の雇用促進のために行った
・現在は高校生を含め5人以上を雇用し、募集をかけていないにもかかわらず、時々、履歴書が届く状態
・雇用問題の1つの解決策として、視察も多く訪れている
▼任期中の心の動き
・着任中は、協力隊関係のイベントに出たことがなかった
・理由は「辛かったから」自分のやっていることに自信がなかった
・地域ごとに人口も課題も違うのに同じ土俵に並べられ、他の自治体の様子を知って、比較して傷つきたくなかった
・自分の心を守るために、ほっといてほしいと思っていた
・今回参加したのは、似たような考えを持っている協力隊の存在を知ったから
▼地域おこし協力隊を経験してみて
・協力隊事業に対して「何かしなくちゃ」という思い
・「都会から若い子が来るから大事にしないと」という考えだけでは、長続きしない
・行政、協力隊。双方に何かメリットがないと、パートナーとして関係が続かない
・地域おこし協力隊として、行政側にも何かメリットを感じてもらえる存在になる必要がある
・実際問題として、今は人手不足。「事業をやりました」という形だけではなく、市民が肌感で体感できる現場の実働部隊が必要。そこに協力隊が活躍できる、舞台がある
▼阿久根市に残った理由
・恩返し。課題は多いけど、応援したくなる人も多い
・愛着があったし伸び代を感じたので、残った
▼地域おこし協力隊に関わる方々に対して
・協力隊事業単体で考えないでほしい
・協力隊が辞めてしまうということは移住定住促進、一次二次産業の雇用促進。空き家再生事業、まちづくり戦略の実現など、これらを諦めるということと、同義
・協力隊を活用するという動きは、受け入れを担当している課だけでなく、行政内の様々な課で実績を残していける可能性があり、今回立ち上げた組織がそこにつながればと考えている
▼さいごに
・色々あったけど、2年半の協力隊期間があったから今できることもある。行政には行政のやり方があるのも見えたし、行政や地域の仕方なさも理解できるようになった
・今後はパートナーとしては実績をお返ししないと、と思っている
参加者の反応
地域おこし協力隊のリアルな声を聞いた参加者。質疑応答では、様々な意見が交わされました。
特に印象的だったのは「鹿児島県として協力隊の方向性を明示するのはどうか」という話の中で
「一人ひとりに対して条例ができるくらいの細やかさが必要」という答えがあったこと。
多くの協力隊が、自分の人生をかけて取り組んでいる協力隊としての活動。
個人としての活動から始まる彼ら彼女らは、協力隊である前に、わざわざ地域に入ってくれた貴重な1人の人間です。
考え方やゴールの描き方、そこへ向かうルートや方法に唯一の正解はなく、地域の様々なキーマンや行政担当者、民間事業者などとコミュニケーションを取りながら、その地域でその人なりの答えを探していくことが求められます。
現状として、仕組みに縛られて理想通りに動けない協力隊が、多く存在する鹿児島県。
今後地域おこし協力隊を受け入れようと考えている地域には、そんな不安を抱えている協力隊に対して、個々人を尊重した制度や仕組みを採用できるような動きが、今後ますます必要になっていきます。
公的な仕組みとして設定することが難しい場合でも「ただ話を聞いてくれるだけで、心が軽くなる」という協力隊の声も多く上がりました。
今日のような研究会を重ねることで、少しでも、地域おこし協力隊を取り巻く環境が良いものになることを、筆者の立場ながら願っております。
参考リンク
日本農業新聞 – 5359人、地方で活躍 地域おこし協力隊10年