コンコン。と扉をたたく音がした。
「すみません!お話がしたくて」
身体が勝手に動く。
足がドアにむかった。
ふだんの私だったらぜったいにでない。
息をひそめて留守のふりをするに決まってる。
足が重い。
水のなかをむりやり進んでいるみたいに。
わかった。
ここは夢のなかだ。
この足の運びが重い感じは、夢だ。
このパターンの時は寝ながら夢だと気づける。
重い足を引きずるようにして扉にたどり着いた。
のぞき穴から外を確認。
なんてせずガチャっと扉を開けた。
「ああ、よかった。間に合いましたね」
そこにいたのは、子どもだった。
「今から私が言うことを目が覚めたら思い出してください」
子どものくせに口調がやけに大人っぽい。
よく見ると、かわいらしいワンピースを着ている。
色が鮮やかでかわいいワンピースだ。
誰?と尋ねたくて口を開いたけど声がでない。
こちらの意思は反映されないタイプの夢のようだ。
「記憶の保持に余裕があればそのまま顔を洗ってください。余裕がなければ、覚えている範囲で書き残してください」
そう言うと二つ折りの紙を開き、淡々と抑揚のない声で喋りはじめた。
大変急ではありますが、明日という日はあなたの人生のターニングポイントです。
今日をどう生きるかであなたの明日が変わり、人生が変わります。
以下の問いがあなたにとってよい明日に、人生に繋がりますように。
誰かを喜ばせることばかりで自分を喜ばせることを忘れていませんか?
自分以外の目を気にしすぎてボロボロの自分を置き去りにしてませんか?
誰かに認められることに必死で自分で自分を認める日はありますか?
自分の頭を撫でてあげることはありますか?
両手で自分の肩を抱きしめる日がありますか?
もっとじぶんでじぶんの人生を生きたいとは思いませんか?
思ったとしてそれはまだ間に合うと思いますか?
間に合わないと思わない場合、なぜ間に合わないと思うのですか?
二つ折りの紙が閉じられた。
「わたしは願っています」
さっきまでの話し方と違って、震えているようだった。
「あなたの今日が幸せで、明日も幸せで、ずっと幸せでありますように」
目が覚めた。
瞳をこすると指が濡れた。
身体を起こすとテーブルには大量の錠剤があった。
昨夜、死のうと思って用意した大量の薬だった。
飲んだ量が少なかったのか死にきれなかったみたい。
夢のことは覚えていた。
もっとじぶんでじぶんの人生を生きたいとは思いませんか?
思ったとしてそれはまだ間に合うと思いますか?
まだ、間に合うのかな。
カーテンの隙間から外の光が部屋に届いてる。
今日は天気がよさそうだ。
まだ、間に合うのかな。
こんなにも死にたがっているじぶんの頭を撫でて、両手で肩を抱きしめたらまた歩けるのかな。
歩きたいって思うのかな。
夢のことは覚えていた。
あのワンピースはわたしのお気に入りだった。
幼稚園のお遊戯会のためにお母さんが手作りしてくれた1品もので、寝る時も着ていた。
それぐらいわたしのお気に入りだったワンピースだ。
涙が頬を濡らした。
今日は天気がよさそうだ。
さんぽにでもいってみようかな。
死ぬかどうか決めるのは、夢でされた質問の答えを考えてからでも遅くない。
わたしの今日が幸せで、明日も幸せで、ずっと幸せでありますように
わたしがわたしに対してそう思えたら死ぬのはやめよう。
ごあんない
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