若い奴こそ、キラキラ生きろ。 [3日目]

「君はこれから、どう生きるの?」

おっさんの表情は
真剣なものに変わっていた。

適当に聴いているわけじゃなく
僕の答えを本当に知りたそうだった。

僕が答えるまで
何時間でも待ってくれそうな
そんな雰囲気を纏っていた。

おっさんに
ぜんぶを吐き出した僕だったけど
メンタルはボロ雑巾のままだった。

少しは楽になったけど
心は悲しいままだった。

とてもじゃないけど
これから、という未来を
明るく捉えることはできなかった。

「どうもこうもないです」
「彼女に振られたばっかで
希望も何もないです」

「これからは、
ひっそりと静かに生きていきます」

そんな後ろ向きな言葉が
今の正直な僕だった。

「そうか」
と呟いたおっさんの表情は
残念とかつまらないじゃなかった。

なんとも
読みにくい表情だった。

「君の話しはさっきぜんぶ聴いたから
次はぼくの話しを聴いてもらってもいい?」

一瞬「おっさんが僕なんかに?」と謙遜した。

だけど、さいごまで話しを聴いてもらったことに
感謝してたし、断る理由もなかった。
僕も明日の予定はない。

「さいしょに君に話しかけたのは
今の若い子が何を考えているのか
知りたかったからなんだ」

僕はおっさんが僕にそうしてくれたように
助言も意見もはさまず
相槌だけを打って聴くことにした。

「ぼくは、今年で38歳になった」

「仕事ではたくさんの部下ができた。
いい役職につくことができ
プロジェクトも任されるようになって
給料もそれなりにもらえるようになった」

「結婚して、子どももいる。
今は会社からの命令で、半年だけ単身赴任なの。
鹿児島でアパートを借りて
一人暮らしをしてるのね」

僕は、相槌を打つ。

「久しぶりの一人の時間は
考え事をするには十分で
ぼくはあることをよく考えるのね」

僕は、相槌を打ち続ける。
時々、おっさんと目を合わせながら。

「そのあることっていうのは
20代のころから持っている夢に
挑戦しようかなっていう計画というか
妄想みたいな」

「ただ考えているだけなんだけど
最近ずっと頭から離れないの」

おっさんは一口だけ
ビールを呑んだ。

「でも、ぼくには守るべき家族がいるし
信頼してくれてる部下や上司がいる」

「いいことばかりじゃないけど
今の仕事の楽しさもわかってる」

「でも頭から離れないんだ
20代の時に抱いた夢がね」

「今までも何度か挑戦しようとしたけど
タイミングが悪かったりしてダメだったの」

「そして、今年38歳を迎えて、来年は39
再来年には40歳だって考えた時に思ったのね」

おっさんはまたビールを口に運んだ。

「挑戦するなら
今が最後のチャンスなんじゃないかって」

僕もビールを一口呑んだ。

「でも中々踏ん切りがつかなくてね」

「もうすぐ40のおっさんが何を夢見てんだ
家族や仕事はどうするんだ、って
もう一人の自分が止めに入るの」

「お前はもう若くないんだぞって
誰からも言われてないのに
自分で思ってしまうの」

「そんなとき
20代の時の自分だったら
どうするかなって考えた」

「そのうち
今の若い子って
どんなこと考えてるんだろって気になって
隣に座った君に話しかけたんだ」

「だからさいしょに年齢を聴いたんですね」

「そう。急に話しかけて悪かったね。
なんか君怯えてたもんね」

はじめておっさんが笑う顔を見た。
おっさんは笑うと
真顔の時より何倍も若く見えた。

「だからね
何を君に聴いてほしいかっていうと」

おっさんの表情は、柔らかかった。

「君はさっき彼女に振られて
すごく悲しいだろうし
とてもじゃないけど
今は未来に希望なんて持てないと思う」

「でもいつか元気になる日がくるから
その時がきたら
前を向いて精一杯生きてほしいんだ」

「若い奴がキラキラ生きてくれないと
ぼくみたいなおっさんは歳をとるばかりだ」

「若い奴こそ、キラキラ生きろ。」

「若い奴は、社会の切り込み隊長だ。
先陣を切って走ってくれ」

「君が今の辛さをのりこえて
キラキラ生きれたら
ぼくもぼくの夢に前向きに
挑戦できるような気がするよ」

「ぼくの20代を
君に押し付けるわけじゃないけど
キラキラした若い奴は
なぜか大人を勇気づけることがあるんだよ」

おっさんの顔の赤みは引いてる。
きっと酔っているから出た言葉じゃない。

若い僕に
心の底から伝えたいことなんだ。

「この辛さをのりこえられる日ってきますかね?」

「ぜったいくるね。
ぼくは38年間生きてるんだよ?」

「38年間生きるなかで
辛いことが何度もあったけど
ぜんぶのりこえられた」

「時間が解決してくれたり
友達に救われたりしてね」

「だから君も大丈夫だよ」

「これに関しては
ながく生きた者の特権だね。
大丈夫って言いきれるよ」

おっさんはまた笑った。

僕の心は、ボロ雑巾から
洗濯したてのハンカチぐらいには
復活していた。

「今日はぼくがおごるよ。
なんでも食べて」

「え、いや悪いですよ!」

「傷ついた時はお互い様だから
気にしないで」

「ぼくも話せて楽しかったし」

この後、おっさんと僕は、
なんと店の閉店時間まで喋りまくった。

話しは途切れなかった。

心は悲しいままだったけど
いくらかマシになった。

いつか傷は癒えるだろう。

僕は社会の切り込み隊長らしい。

おっさんのためにも
キラキラ生きてやるか。

そう思うと
これからの困難や失敗
辛いことや苦しいことは
すべてのりこえられる気がした。

おっさんは
「キラキラした若い奴は
なぜか大人を勇気づけることがある」
って言ってたけど、逆もある。

キラキラした大人は
社会の目印だ。

僕たち若い奴は
いろんな目印を見つけ
憧れ、勇気づけられ
目指すことでキラキラできたりもする。

 

おっさんがおごってくれたご飯と酒の味を
僕は忘れない。

 

僕は僕のキラキラを、生きるんだ。

(おわり)

 

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ごあんない

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