「おばあちゃんの初恋っておじいちゃん?」
とつぜん、孫がおばあちゃんに尋ねました。
「初恋はねえ、おじいちゃんじゃないのよ」
困り顔で答えるおばあちゃん。
でも、孫はそんなこと気づきません。
「えー。違うの?じゃあ、初恋の人ってどんな人だった?」
おじいちゃんは朝から畑に出ていて、家にいません。
「そんなこと聞いてどうするんだい?」
ごまかそうと試みるおばあちゃんですが・・
「なんとなく気になっただけ!」
孫には通じません。
困り顔のおばあちゃんでしたが
「あなたと私女同士の秘密にできるなら教えてもいいわよ」と条件を提示しました。
「秘密!守れるよ!約束する!」
孫は秘密というキーワードに目を輝かせます。
「じゃあ、少しだけ教えてあげますよ」
静かなやさしい声で、おばあちゃんは話しはじめました。
「私の初恋は、2つ年上の学校の先輩だったわ。校内掃除の場所が近くて、しゃべるようになったの。同級生の子どもっぽい男の子たちと違って、すごく大人に見えたわ。背が高くて、スラっとしててね。ちょっと猫背だけど、それもかっこよかったの」
「その先輩のどこが好きだったの?」
「声よ。やさしく響く、ひくい声に惹かれたの」
「先輩とは好き同士になれたの?」
「なれなかったわ。驚くことに、先輩の好きな人は男の人だったの」
「えええ!男の人・・」
「最近は、珍しくないけどね。当時はびっくりして、何も言えなくなっちゃったわ」
「その後はどうしたの?」
「何もないわよ。男の人がすきって言ってるのに告白するのはおかしいと思って、何も言わなかった。先輩はそのまま卒業していったわ」
「えー。おばあちゃんは後悔してないの?」
「告白しなかったこと?」
「うん」
「後悔なんてしてないわよ。むしろうれしかったわ。わたしに秘密を教えてくれたことが嬉しかったの」
「先輩とおばあちゃんだけの秘密?」
「そうね」
「でも、今わたしに喋っちゃったよ」
「そう。だから、この話はあなたと私だけの秘密よ。誰にも話してはだめ。秘密っていうのは、共有した人同士をもっと仲良くさせるのよ」
「じゃあ、わたしとおばあちゃんはもっと仲良し?」
「そうよ」
「じゃあ、先輩とおばあちゃんは好き同士じゃないけど、もっと仲良しになったんだね!」
「そう。だから私は告白しなかったことを後悔してないの」
困り顔だったおばあちゃんの表情は、なんだかスッキリしています。
「わたしもいつか好きな人ができるかなー」
「そのうちね、できるわよ」
孫は眉間に小さなしわをよせると、黙りました。
考え事をしているようです。
「もしもあなたの好きな人が男の人じゃなくて、女の人だったら悩んだりしないでおばあちゃんに話してね」
「わたしの秘密を次はおばあちゃんに話すの?」
「そうそう」
「そしたらもっともっと仲良しになるね」
「そうそう」
その後、孫が誰を好きになったのかはわかりません。
でもきっと幸せな人生を送りました。
誰かと秘密を共有しながら。
仲良しになりながら。
ごあんない
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