昔々のおはなしです。

むかーしむかし
心にたくさんの後悔を
背負ったおじいさんがいました。

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おじいさんの口癖は
いつもこう。

「あの時ああしていれば」
「あの時ああしなければ」

孫はいいます。
「おじいちゃんは、
何を後悔してるの?」

おじいさんは答えます。
「何を? ぜんぶだよ

「ぜんぶってどれ?」

「ぜんぶっていうのは
産まれてから今までぜんぶってことだよ」

「産まれたことも
後悔してるの?」

「そうさ。
なぜ生きてるのかもわからないよ」

眉毛は八の字に下がり
顔はシミだらけ。

手の甲はしわしわで
ところどころ黒ずんでいます。

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窓の隙間から
とても冷たい風が吹きました。

身体を芯から冷ます風でした。

「でもぼくは、
おじいちゃんのおかげで産まれたんだ」

おじいちゃんの目は
孫の目に吸いこまれました。

「おじいちゃんはいつも
後悔の言葉を口からだしてる。

 ぼくは毎日聴いてるよ。

 毎日聴いててある日
ぼくはこう思ったよ。

 もしかしておじいちゃんは
ずっと自分を責めてるのかなって」

孫の目が潤んできた。

「後悔だらけだったかもしれないけど
ぼくはおじいちゃんが後悔しながら
生きてくれたおかげで今ここにいるよ。

産まれることができたよ。

おじいちゃんが
産まれて生きてきた時間のなかで
何か1つでも一瞬でも違ってたら
ぼくは
ぼくとして産まれることはできなかった。

おかげで
チーズのとろけるおいしさや
焚き火を囲むときのあたたかさを知ったよ。

これからはさ
ぼくがおじいちゃんの
後悔を吹き飛ばすくらい、
いい子になるよ。

だから、おじいちゃんはもう自分を責めないで。

ぼくが産まれたことで
おじいちゃんの後悔をチャラにしてよ。

ぼくのこと、だいすきでしょう?」

孫の頬には大粒の涙が、

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おじいちゃんのしわくちゃな手には
じぶんの涙が。

「おいで」
おじいちゃんは孫を抱きしめました。

その夜はとてもとても寒い風が
木々を揺らしました。

ぴゅーぴゅーといつまでも。

でも、2人を包む空気だけは
いつまでも暖かく
優しく2人を包んでいました。

 

 

ごあんない

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