「24ですけど・・」
隣のカウンターに座ってる
知らないおっさんに話しかけられた。
黒いスーツの上着は椅子にかけられ
ネクタイはゆるゆるになってる。
顔がちょっと赤い。
テーブルの上の皿は、ほとんど空っぽ。
けっこう呑んでるみたいだ。
くそ。
ふられたあげく
おっさんに絡まれるとか最悪じゃん。
返事しちゃったし
今から無視するのもなんかなー。
ビールを口に運びながら
ごちゃごちゃ考えてたら
おっさんは言った。
「泣いたの?」
勢いよくぐりんっと首が回り
おっさんと目が合ってしまった。
「泣いたのね」
「そんなにわかりやすい反応したら
.誰だってわかるよ」
「いや、泣いてないですよ」
「ほっぺたに涙の痕がついてるよ」
「えっ」
とっさにほっぺを触る僕。
「別に恥ずかしくないよ。
・男だって泣くことぐらいあるさ」
よく見ると
おっさんは別におっさんじゃなかった。
肌はつやつやで、髪はふさふさ。
白髪もない。
急に話しかけられ
びっくりして咄嗟に
「うわ、おっさんだ」と判断しただけで
まじまじと観察したら
案外若いような気がした。
「話し、聴いてくれますか?」
「・・・え?」
「えっ」
「え?」
「えっ」
「・・別にいいけど?」
え?
話し聴いてくれますかって言った?
言ったの僕の口だった?
んでもって、おっさんは話し聴くの?
なんかもう
彼女にふられたショックで
僕はおかしくなってるんだ。
見ず知らずのおっさんに
話しを聴いてもらいたいぐらい
ダメージを受けてるんだ。
「いいよ。
・ぼくは明日お休みで、何の予定もないし」
なんと奇遇な!
そんなことを言われたもんだから
現在メンタルがボロ雑巾の僕は
ちょっと甘えたいなんて思ってしまった。
「何から聴こうか?」
ぜんぶ話しちゃえ、と
頭のなかで声がした。
吐き出さないと
壊れてしまいそうだった。
自分がそんな風になっていることに
今、気づいた。
「実は、さっき彼女に振られまして・・」
下を向いてしゃべり始めたせいで
声が小さくなってしまった。
おっさんの耳に届いただろうか・・。
恐る恐る顔をあげ、
恐る恐る見たおっさんの顔には、
「興味ない」の4文字が書かれていた。
もちろん、比喩だ。
「それで?」
明らかに表情は
興味ないの表情だけど
話しを聞く気がないわけではなさそう。
僕はさっきのドトールでの出来事を
ぜんぶ話した。
彼女との会話を
鮮明に、事細かく。
その都度、僕が
どういう感情だったかも話した。
おっさんの表情は
相変わらずだったけど
助言や意見をはさむことなく
相槌を打ちながら、集中して聴いてくれた。
「話したいことはぜんぶ話せた?」と
確認までしてくれた。
「はい。ぜんぶ聴いてもらいました」
文字通り、ぜんぶ吐き出した。
軽く息切れするぐらい。
「君の話しを聴くなかで
・1つ質問したいことができたんだけど、いい?」
「もちろん」
と言いながら僕は
水滴でびちょびちょになったジョッキを手に持った。
おっさんの質問は、短かった。
「君はこれから、どう生きるの?」
おっさんと目が合った。
おっさんの顔からは、「興味ない」の4文字は消えていた。
(つづく)
つづき【3話め】はこちら
ごあんない
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